[小説]イルミネーション・トランスポート(前編)

前回の小説はプロットがふくらみすぎてブログじゃ収まらなくなりそうなので、別の小説を載せます(前のは消しました。お蔵入りです。)。
ちなみに今回の小説の本文は全てiPhoneで書きました。内容はほとんど推敲してない状態なので、プロトタイプ的な感じでお願いします。
後編は順調にいけば一ヶ月後くらいの予定です。もしかしたら次は[中編]になるかもしれません。

本文は続きからです。

——————————

イルミネーション・トランスポート[前]
作・立談百景

 キラキラと綺麗なモミの木のイルミネーション、カジノの下世話なネオンサイン、星々のつんざくような夜空。
 そいつらをあんたらに届けるのが俺の仕事だ。
 空飛ぶトラックからこんばんは。綺麗でキラキラとしたものを届けるんだから、俺も綺麗でキラキラとしてなくちゃならない。イルミネーションのついた特製ジャケットに身を包み、俺たち電飾屋は今日も駆けずり回る。「グッドナイト! あなたのハートに綺麗な灯りのマジックを! イルミネーション急便です!」。
 今日もキラキラ、明日もキラキラ。あんまりキラキラと眩しいもんだから、俺のティアドロップは特注、きちんとレンズに度が入ってる。目は悪くなるし、いつもキラキラで目立ちまくる。イルミネーション急便とは洒落た名前だが、俺はこの仕事があまり好きになれなかった。いや、誤解のないように言い直せば、こんな仕事は大キライだった。
 最初は好きになれると思ったんだ、こんな仕事でも。この仕事を始める前はイルミネーションだとか星とか、夜景だとか、そういったキラキラと輝くものが大好きだった俺だ。そんなものを見ているだけで幸せな気持ちになれたし、笑っていられた。それを見て笑っているやつを見ているだけでも幸せだった。
 だからこの仕事を知った時は、天職だと思ったね。
 キラキラが好きなヤツが、キラキラが好きなヤツのためにキラキラを届ける。届けたヤツも届けられたヤツも笑ってる。こんなに幸せな光景はないと思った。
 でも現実はそうじゃなかったよ。幸せなんてものは程遠いね。俺の考えが甘かった。
 俺はそもそも見るのは好きでも、見せたり見られたりするのは大嫌いだった。
 俺のことを狭量と見るか日陰者と見るか、そのあたりはあんたに任せるよ。でも勘違いしないでくれよ。ほかのヤツはさ、俺みたいにひねた考えなんてしていない。あいつらはこの仕事に誇りを持って働いてるし、届けた方も届けられた方も幸せに笑いあえる。そんな考えのヤツばかりだ。ただ俺だけが、そんなヤツじゃなかった。そう知った時には、さすがに愕然としたね。俺は自分を、もっといいヤツだと信じてたんだろう。
 そんなわけで、心の狭い俺は、すぐにこの仕事が嫌いになった。若かったんだな、トンガってた。若いうちは心に余裕がないだろう? 俺もその例に漏れず、自分自身で精一杯だったわけだ。
 すぐに他人の笑顔が幸せだなんて考えられなくなった。笑顔って表情は、思いのほかムカつくもんだって知った。理由なんてあるわけじゃないさ。とにかく、全てに敵意があるように感じられたんだ。人間が嫌いだったんだな。今思えば、なんとなく汚いものだと感じていた気がするよ。
 俺がイルミネーションを届けるために、キラキラと光る服を身に付ける。俺は眩しいからサングラスをかける。サングラスの向こうでは、浮かれたヤツらが揃い踏みで笑ってる。届けられたキラキラのイルミネーションと、届けにきたキラキラのティアドロップ野郎を見ながら笑ってやがるんだ。
 ああ、少し前までは、俺もその浮かれたヤツらの一人だったんだなと思ったよ。悲しいね。
 だからもうこんな仕事はやめてしまおうと思った。人の幸せなんて願ってられないって気づいたんだ。自分に精一杯でさ。
 でもそんなとき、俺は一人の女の子に出会った。その時俺は23歳で、その子は18歳だった。そしてその日はクリスマスイブで、世界中が浮かれ始める最も忙しい時期だった。とは言え電飾屋にとってのクリスマスやニューイヤーなんてのは、ただ忙しいだけのありがた迷惑の日でしかない。全く難儀だね、ニューイヤーが終わってやっと休めるって頃には、世間はもう浮かれ気分から抜け出そうとしている。お祭り気分を味わうことのない、淡白な冬休みさ。
俺はこのクリスマスからニューイヤーまでの繁忙期が終わる頃には、仕事をやめようって決めていた。次の仕事は決まってなかったが、人の顔を見続けるような仕事だけはやめようと決めていたよ。
 その日も山の麓にある小さな町に最後の配達を終えて、そうだな、辞めるなら局長にどうやって切り出そうかと考えていたときだった。配達忘れがないか、エアトラックの荷台を確認しに行ったんだ。
 残念なことに俺は配達業に向いているんだろう、いままでに配達間違いや配達漏れをしたことがない。
 だかまあ、仕事はきちんとやらないとダメだろう? 作業的だが、俺はトラックの荷台のドアを開けた。
 しかしその日は、単なる作業とはいかなかった。空っぽであるはずの荷台に何か見なれない影が見えた上に、その影はどうやら動いていたんだ。
 これは面倒ごとだなと、直感的に感じた。でも俺のトラックの中で起こってることだから、無視もできない。仕方なく俺は荷台に上がって、灯りをつけた。イルミネーション急便のトラックとは言え、荷台の灯りは裸電球だけだ。まあ、薄暗い灯りも俺は嫌いじゃないね。
 その心もとないオレンジの暗灯りに照らされたのは、白い布に包まれた、そうだな、クリスマスツリーくらいの大きさのものだった。それはじっとしているように見えたが、時折もぞもぞと動いていた。大型犬が何かを、誰かが無断で、見つかるかどうかも分からない次の飼い主に届けさせようとしたんじゃないかと踏んでいた。
 何も動かさずに、一度集配局に戻って局長に報告しようとも思ったが、それも面倒だった。俺は思いきって包んでいた布を引き剥がした。
 そして俺は一瞬、それがなんなのか分からなかった。最初は、犬だろうかと思った。だけどすぐに違うと分かった。
「こんばんは、イルミネーション急便さん。」
 ああ、なんてことだ。
 犬じゃなかった。そいつは俺の顔を見ながら、ハッキリと人の言葉を喋った。
 そうとも。何故か俺のトラックの荷台には、布に包まった人間が、それも女の子が乗っていたんだ。
 女の子は自分のことをサリーと名乗った。サラ・ノースブリッヂという名前だった。印象としては、快活で、裏表のない感じだった。まだ子どもみたいだったし、あまり世間を知らないようにも見えたな。
「それで、サリー。あんたはどうしてこんなとこに?」
「イルミネーション急便は市街の方に、フラップピークへ帰るんでしょう? そこまで私を乗せていって欲しいの。」
「なるほど、そうかい。」
「お願いできないかしら?」
「残念だか俺たちはタクシー屋じゃない。あんたがイルミネーションで、誰かが運賃を払うってんなら俺たちは届けてやるが、どうやらあんたは俺たちの街の夜景ってわけでもなさそうだ。悪いねサリー、さっさと俺のトラックから降りろ。」
 下手な荷物じゃなくて良かったよ。人間なら言葉が通じる。
 でもサリーは人間じゃなかったのかもしれない。
「運賃なら払うわ。10ドル? 15ドル?」
「耳はついてるか、ノースブリッヂさん? 人間は運ばないって言ったんだ。」
「ねえ、お願い……スタンリー。」
「人の名札を勝手に見るなよ。俺は人の名札から名前を盗むやつが、オニオンピザの次に嫌いだね。」
「それはごめんなさい。でも本当に、お願いよ。もうあなたしか頼れないの。バスも列車もとっくに終わってしまったわ。それにこんな町じゃ、タクシーなんて停まらないもの。車も通らないし。あなただけなの、イルミネーション急便さん。」
 やっていることは最悪だったが、サリーの口振りはどこか危機迫るようだった。
 人間は嫌いだったさ。でもだからって、必死に何かを訴えようとしている子どもの言うことを無碍にできないくらいには、俺も人間だったんだな。そんなに必死なら、理由くらいは聞いてやろうと思ったんだ。
 だがサリーは少し俯いたままで、口を開こうとしない。
「黙ってちゃわかんねえぞ、嬢ちゃん。」
 しかし何度尋ねても、サリーは答えようとしなかった。ただ最後に一度だけ俺の目を見て、「お願い、スタンリー」と呟いたきりだった。
 俺はその時、疲れていたんだな。そしてこの禅問答よりも質の悪いサリー問答とでも言うべきやりとりを、さっさと終わらせたかったんだ。
 だから俺はこの少女を、フラップピークまで運んでやることにした。善意とか、慈愛とかじゃないさ。本当に。ただただ俺はさっさと家に帰りたいだけだった。
「いいよ、分かった。フラップピークまで運んでやるよサリー。」
 その言葉を聞くと、サリーは跳ねるように首を持ち上げた。
「本当に?」
「ああ。運んでやるさ。だからさっさと荷台から降りろよ。人間を荷物にしたら、ポリスマンにどやされる。」
「ありがとう、スタンリー!」
 サリーは立ち上がって握手を求めてきたが、俺は無視して先に荷台から出た。
 助手席にサリーを促して、俺も運転席に乗り込む。サリーが立ち上がったときに初めて全身を見たが、思っていたよりもずっと背が高くて、子どもっぽい印象は少し薄れたよ。
 荷物らしいものは何も持っていないらしく、家出の様子もなかった。ただ唯一、荷台の中でくるまっていた布を折りたたんで、後生大事そうに抱えてるのも気になったが、詳しくは聞かなかった。
 助手席に座ったときに、初めてサリーに年齢を聞いた。18歳になったばかりだと聞かされて、多少は驚いたね。俺と5つしか違わなかった。それに条例で夜間外出の許されるのは18歳からだから、危なかったよ。
 俺がエアトラックを出すと、サリーは嬉しそうにはしゃいでいた。空中の通行を許可されているのは、トラックなんかの運送業と、観光バスくらいに限られてる。空を飛ぶ乗り物が珍しかったんだな。そういうところは、どう見ても子どもだった。
 サリーはやかましかったよ。運転が始まってからは、終ぞしゃべりづくだった。どんな事を話していたのかはほとんど覚えてないね。シンガーのアイスマンだかライスマンだかがどうとかーー。その時は状況が面倒でどうしようもなかったんだ、しかたないだろう? ただ終いまで、市街に行きたがる理由は口にしなかった。
 やがてフラップピークの街灯りが見えた頃に、サリーが俺に尋ねてきた。ああ、それまで小一時間ずっとしゃべりづくだったにもかかわらず、一度も俺に尋ねかけるなんてことをされなかったから、そこだけはよく覚えてるよ。
「ねえ、スタンリー。」
 しゃべり飽きたんだろうと思ったね。俺は声を出さずに、目配せして答えた。目端に見えたサリーは、少しおっかなびっくりしているようだった。
「あなた、どうして急に、私を乗せていってくれる気になったの?」
「別に」隠す理由もない。俺は正直なところを話すことにした。「大した理由なんてないさ。あんたがあそこで駄々をこね続けるよりも、大人しくフラップピークまで運んでやった方が、面倒じゃなくていいと思っただけだ。」
 もうこの仕事を辞めようと思っていたのもよかった。こんなことがバレたらすぐにクビだが、俺はむしろそれでもよかった。
「それとも、あのまま荷台から引きずり下ろされた方がよかったかい?」
「いいえ、とんでもない! 感謝しているわ、ありがとう、本当に。でも、その、私、何かお礼をしなくちゃ。」
 やめてくれ。そっちの方が面倒だ。
「いらないね。今日はたまたま、タクシー屋の真似事をしてもいい気分だったんだ。あんたは目的地についたら、さっさと車から降りてくれりゃいい。」
「わかったわ、ありがとう。あなた、見た目よりもずっと良い人なのね。」
「それはどうも。ほっといてくれ。」
 自分の見た目が普通の人のそれより、かなり厳めしいことに自覚はあった。サングラスもよくなかったな。ヒゲも剃るべきだったろう。これで恰幅がよけりゃあ、モーターサイクルギャングにでもなれたかもな。だけどあいにく、骨と皮だけでできたような男でね。
「ねえ、サングラス、外して見せてよ。」
「嫌だね。」
 この歳の女はすぐに人の顔を暴きたがって困る。さっきはおっかなびっくりしているように見えたが、そんな態度はもう微塵も感じなかった。
「あら、どうして? サングラスを取った方が、きっと素敵よ。ティアドロップなんて、ちょっと不良っぽいもの。」
「運転中でね。俺は目が悪いんだ。」
「そのサングラス、メガネにもなってるのね。でもサングラスを外した方がきっと素敵ね。眼鏡を掛けても素敵かも。嫌ならコンタクトレンズは?」
 分かったように言いやがる女に、俺は答えなかったし、顔を少しも見なかった。面倒だったんだな。
 すぐ目の前には、フラップピークの夜景が広がっていた。フラップピークはイルミネーションの街だから、夜景は特別にキレイだ。シケたカジノもボーリング場も、くたびれたアパートメントだって、この街ではキラキラとしている。
「光の街、フラップピークへようこそ。」なんて書かれた街の入り口の一際明るい看板を俺たちは通り過ぎた。こんな光景は、よほど観光客でもない限りは見たことがないだろう。サリーはやはり、嬉しそうにはしゃいでいた。
 俺は最終電車の過ぎた人気のない駅裏にトラックを降ろすことにした。
「駅の裏で降ろすぞ、いいな?」
「ええ、いいわ。ありがとう。」
 ライトを消して、俺はゆっくりと高度を下げる。エアトラックは静かだ。辞めてもいいなんて思っていても、気付けば人に見つからないように行動をしている。みっともないね。明日の生活の方が大切だったんだな、現実的には。
 駅の裏は明るい割に人通りも少なく、好都合だった。
「ありがとう、スタンリー。このお礼は……」
「5ドルだ。」
 俺は礼を言いながらクルマを出ようとするサリーを引き止めた。
「今日はタクシーなんでね。5ドル払いな。」
 タクシーの運賃にしちゃ安すぎるが、別に俺は金が欲しいわけじゃなかった。金を払わせることこそが重要だ。金を払って運んでもらったんなら、今の礼も後の礼もなくなる。俺は貸しも借りも作るつもりはなかった。
「オーケー、5ドルね。」
 最初はきょとんとしていたサリーだったが、しかし突然の請求にもイヤな顔一つせず、すくわに五枚の1ドル札を差し出してきた。
 俺はそれを乱暴に受け取って、イヤらしく枚数を数えてみる。イヤな奴に運んでもらって金を取られたんじゃ、もう恩返しなんて考えないと思ったんだ。
 しかしまあ、なんと言うかだな。この時に確信したが、あいつは俺と違って根っから純粋なやつなんだな。それとも本当に俺のことをタクシー遊びの名手だと勘違いしたのか。いずれにせよ純粋ではあるだろう。
「本当にありがとう、スタンリー。きちんとしたお礼は近いうちに必ず。」
 ちくしょうめ、サリーは恩を感じずにはいられなかったんだな。本当に困ったヤツだ。
 そう言ってサリーは車を降りた。俺は愛想なく手を振って、二度と再会しないように祈ってたよ。
 サリーがドアを閉めて数秒、俺はトラックのキーを回した。後はトラックを局へ置いて、家に帰るだけだった。ようやく長い一日終わったと思ったが、しかしそれも束の間だった。
 トラックをの高度を上げようとした瞬間、なぜか助手席側のドアがまた開いたんだ。
「スタンリー、ちょっとまって!」
 ドアを開けてきたのは、ああ、やはりサリーだった。二度と再会しないようにいのったってのにな、どうやらこの世に神様はいないらしい。
 俺は慌てて離陸を止め、トラックを再び地面に戻した。数十インチばかり持ち上がったトラックは、少し衝撃に揺れた。
「離陸中のトラックのドアを開けるなんて、死にたいのか!」
 俺はさすがに怒鳴ってやったが、しかしサリーは俺が怒鳴るのも意に介さなかった。
「あら、あなた大きい声も出せるのね。てっきりフクロウのモノマネが得意なのかと思ってたわ。」
 全く飄々としてやがる。最近のハイティーンってのはみんなこうなのかと思ったね。俺はそれ以上怒鳴るのを止めた。
「それで? 死にかけてまで俺のトラックを停めた理由は?」
「あなたに渡すものがあって。」
「金なら貰ったぜ。」
「違うの。」
 サリーは再び俺の隣に腰をかけて、今まで大事そうに持っていた白い布を広げ始めた。サリーを包み込めるくらに大きなその布は、どうやら袋のようだった。
「そんなでかい袋を持って、サンタクロースにでも弟子入りする気か?」
「まあね。」
 生返事をしながらサリーは袋の中をごそごそとやっている。さっきまで小さく折りたたまれた袋の中にから、一体何を探しているのか。ついに喋り過ぎて脳に酸素が回らなくなってしまったのかと思ったね。
 しかし俺は目の前で起こったことに、今度は自分の頭を疑うことになった。
「これ、あげるわ。」
 サリーは俺の目の前に、人の頭くらいはあるだろう四角い箱を差し出してきた。
 空っぽだったはずの袋の中から、その箱を差し出してきたのだ。
 緑色の包装紙はキラキラとしたラメ入りで、赤いナイロンのリボンで飾られている。いかにもプレゼントといった体裁だった。
「こんなもの、一体どこから……。」
 言いかけた俺の口にサリーの人差し指が当たる。更にサリーはもう片方の人差し指も自身の唇に当て、少しだけ微笑んだ。
「詳しい話しは、またの機会に。それじゃあ、また会いましょうスタンリー。」
 そして俺の返事も待たずに、サリーは再び俺のトラックの中から消えた。駅の裏、トラックの中は思った以上に静かだ。
 俺は深く考えるのをやめることにした。サリーは「また会いましょう」なんて言っていたが、そんなものはこちらから願い下げだ。次にあった時は知らないフリをしてやろうと決めた。
 俺と彼女との関係は、今日のついさっき、サリーが俺のトラックのドアを閉めて終わったのだ。
 再びエンジンをかけようと、俺はサリーが渡してきた箱を助手席に放ろうとしたが、やめた。あんな手品めいたことをされて、箱の中身が少しだけ気になったんだ。
 爆弾でも入ってやしないだろうか。
 俺は丁寧とはいかないまでも、ビリビリと散らかすことなくリボンと包装紙を剥がした。皮を剥くと、茶色い蓋つきの箱が一つ。俺は爆弾じゃないことを祈りながら蓋を開けた。
 もちろん、中身は爆弾なんかじゃなかった。
 でも俺はその箱の中身を、少しだけ恐ろしく思ったよ。
 なんせ、その箱に入っていたのは眼鏡だったんだから。それもきちんと俺の目に度の合う、真新しい眼鏡だったんだ。ご丁寧にケースも付いていた。
 俺はケースに入れたまま眼鏡をダッシュボードの中に放り込んで、プレゼントの包装紙は助手席の下に押し込んだ。
 俺は深く考えるのをやめていた。だからその日は何も考えずにそのまま大人しく局へ戻って、家に帰ったよ。
 長い夜だったね。帰り道にコンビニエンスストアに寄って、サリーから貰った5ドルでセブンスターを一箱買って帰った。

——————————

イルミネーション・トランスポート[前]
作・立談百景

 キラキラと綺麗なモミの木のイルミネーション、カジノの下世話なネオンサイン、星々のつんざくような夜空。
 そいつらをあんたらに届けるのが俺の仕事だ。
 空飛ぶトラックからこんばんは。綺麗でキラキラとしたものを届けるんだから、俺も綺麗でキラキラとしてなくちゃならない。イルミネーションのついた特製ジャケットに身を包み、俺たち電飾屋は今日も駆けずり回る。「グッドナイト! あなたのハートに綺麗な灯りのマジックを! イルミネーション急便です!」。
 今日もキラキラ、明日もキラキラ。あんまりキラキラと眩しいもんだから、俺のティアドロップは特注、きちんとレンズに度が入ってる。目は悪くなるし、いつもキラキラで目立ちまくる。イルミネーション急便とは洒落た名前だが、俺はこの仕事があまり好きになれなかった。いや、誤解のないように言い直せば、こんな仕事は大キライだった。
 最初は好きになれると思ったんだ、こんな仕事でも。この仕事を始める前はイルミネーションだとか星とか、夜景だとか、そういったキラキラと輝くものが大好きだった俺だ。そんなものを見ているだけで幸せな気持ちになれたし、笑っていられた。それを見て笑っているやつを見ているだけでも幸せだった。
 だからこの仕事を知った時は、天職だと思ったね。
 キラキラが好きなヤツが、キラキラが好きなヤツのためにキラキラを届ける。届けたヤツも届けられたヤツも笑ってる。こんなに幸せな光景はないと思った。
 でも現実はそうじゃなかったよ。幸せなんてものは程遠いね。俺の考えが甘かった。
 俺はそもそも見るのは好きでも、見せたり見られたりするのは大嫌いだった。
 俺のことを狭量と見るか日陰者と見るか、そのあたりはあんたに任せるよ。でも勘違いしないでくれよ。ほかのヤツはさ、俺みたいにひねた考えなんてしていない。あいつらはこの仕事に誇りを持って働いてるし、届けた方も届けられた方も幸せに笑いあえる。そんな考えのヤツばかりだ。ただ俺だけが、そんなヤツじゃなかった。そう知った時には、さすがに愕然としたね。俺は自分を、もっといいヤツだと信じてたんだろう。
 そんなわけで、心の狭い俺は、すぐにこの仕事が嫌いになった。若かったんだな、トンガってた。若いうちは心に余裕がないだろう? 俺もその例に漏れず、自分自身で精一杯だったわけだ。
 すぐに他人の笑顔が幸せだなんて考えられなくなった。笑顔って表情は、思いのほかムカつくもんだって知った。理由なんてあるわけじゃないさ。とにかく、全てに敵意があるように感じられたんだ。人間が嫌いだったんだな。今思えば、なんとなく汚いものだと感じていた気がするよ。
 俺がイルミネーションを届けるために、キラキラと光る服を身に付ける。俺は眩しいからサングラスをかける。サングラスの向こうでは、浮かれたヤツらが揃い踏みで笑ってる。届けられたキラキラのイルミネーションと、届けにきたキラキラのティアドロップ野郎を見ながら笑ってやがるんだ。
 ああ、少し前までは、俺もその浮かれたヤツらの一人だったんだなと思ったよ。悲しいね。
 だからもうこんな仕事はやめてしまおうと思った。人の幸せなんて願ってられないって気づいたんだ。自分に精一杯でさ。
 でもそんなとき、俺は一人の女の子に出会った。その時俺は23歳で、その子は18歳だった。クリスマス前で、世界中が浮かれ始める最も忙しい時期だった。俺はこのクリスマスからニューイヤーまでの繁忙期が終わる頃には、仕事をやめようって決めていた。次の仕事は決まってなかったが、人の顔を見続けるような仕事だけはやめようと決めていたよ。
 その日も山の麓にある小さな町に最後の配達を終えて、そうだな、辞めるなら局長にどうやって切り出そうかと考えていたときだった。配達忘れがないか、エアトラックの荷台を確認しに行ったんだ。
 残念なことに俺は配達業に向いているんだろう、いままでに配達間違いや配達漏れをしたことがない。
 だかまあ、仕事はきちんとやらないとダメだろう? 作業的だが、俺はトラックの荷台のドアを開けた。
 しかしその日は、単なる作業とはいかなかった。空っぽであるはずの荷台に何か見なれない影が見えた上に、その影はどうやら動いていたんだ。
 これは面倒ごとだなと、直感的に感じた。でも俺のトラックの中で起こってることだから、無視もできない。仕方なく俺は荷台に上がって、灯りをつけた。イルミネーション急便のトラックとは言え、荷台の灯りは裸電球だけだ。まあ、薄暗い灯りも俺は嫌いじゃないね。
 その心もとないオレンジの暗灯りに照らされたのは、白い布に包まれた、そうだな、クリスマスツリーくらいの大きさのものだった。それはじっとしているように見えたが、時折もぞもぞと動いていた。大型犬が何かを、誰かが無断で、見つかるかどうかも分からない次の飼い主に届けさせようとしたんじゃないかと踏んでいた。
 何も動かさずに、一度集配局に戻って局長に報告しようとも思ったが、それも面倒だった。俺は思いきって包んでいた布を引き剥がした。
 そして俺は一瞬、それがなんなのか分からなかった。最初は、犬だろうかと思った。だけどすぐに違うと分かった。
「こんばんは、イルミネーション急便さん。」
 ああ、なんてことだ。
 犬じゃなかった。そいつは俺の顔を見ながら、ハッキリと人の言葉を喋った。
 そうとも。何故か俺のトラックの荷台には、布に包まった人間が、それも女の子が乗っていたんだ。
 女の子は自分のことをサリーと名乗った。サラ・ノースブリッヂという名前だった。印象としては、快活で、裏表のない感じだった。まだ子どもみたいだったし、あまり世間を知らないようにも見えたな。
「それで、サリー。あんたはどうしてこんなとこに?」
「イルミネーション急便は市街の方に、フラップピークへ帰るんでしょう? そこまで私を乗せていって欲しいの。」
「なるほど、そうかい。」
「お願いできないかしら?」
「残念だか俺たちはタクシー屋じゃない。あんたがイルミネーションで、誰かが運賃を払うってんなら俺たちは届けてやるが、どうやらあんたは俺たちの街の夜景ってわけでもなさそうだ。悪いねサリー、さっさと俺のトラックから降りろ。」
 下手な荷物じゃなくて良かったよ。人間なら言葉が通じる。
 でもサリーは人間じゃなかったのかもしれない。
「運賃なら払うわ。10ドル? 15ドル?」
「耳はついてるか、ノースブリッヂさん? 人間は運ばないって言ったんだ。」
「ねえ、お願い……スタンリー。」
「人の名札を勝手に見るなよ。俺は人の名札から名前を盗むやつが、オニオンピザの次に嫌いだね。」
「それはごめんなさい。でも本当に、お願いよ。もうあなたしか頼れないの。バスも列車もとっくに終わってしまったわ。それにこんな町じゃ、タクシーなんて停まらないもの。車も通らないし。あなただけなの、イルミネーション急便さん。」
 やっていることは最悪だったが、サリーの口振りはどこか危機迫るようだった。
 人間は嫌いだったさ。でもだからって、必死に何かを訴えようとしている子どもの言うことを無碍にできないくらいには、俺も人間だったんだな。そんなに必死なら、理由くらいは聞いてやろうと思ったんだ。
 だがサリーは少し俯いたままで、口を開こうとしない。
「黙ってちゃわかんねえぞ、嬢ちゃん。」
 しかし何度尋ねても、サリーは答えようとしなかった。ただ最後に一度だけ俺の目を見て、「お願い、スタンリー」と呟いたきりだった。
 俺はその時、疲れていたんだな。そしてこの禅問答よりも質の悪いサリー問答とでも言うべきやりとりを、さっさと終わらせたかったんだ。
 だから俺はこの少女を、フラップピークまで運んでやることにした。善意とか、慈愛とかじゃないさ。本当に。ただただ俺はさっさと家に帰りたいだけだった。
「いいよ、分かった。フラップピークまで運んでやるよサリー。」
 その言葉を聞くと、サリーは跳ねるように首を持ち上げた。
「本当に?」
「ああ。運んでやるさ。だからさっさと荷台から降りろよ。人間を荷物にしたら、ポリスマンにどやされる。」
「ありがとう、スタンリー!」
 サリーは立ち上がって握手を求めてきたが、俺は無視して先に荷台から出た。
 助手席にサリーを促して、俺も運転席に乗り込む。サリーが立ち上がったときに初めて全身を見たが、思っていたよりもずっと背が高くて、子どもっぽい印象は少し薄れたよ。
 荷物らしいものは何も持っていないらしく、家出の様子もなかった。ただ唯一、荷台の中でくるまっていた布を折りたたんで、後生大事そうに抱えてるのも気になったが、詳しくは聞かなかった。
 助手席に座ったときに、初めてサリーに年齢を聞いた。18歳になったばかりだと聞かされて、多少は驚いたね。俺と5つしか違わなかった。それに条例で夜間外出の許されるのは18歳からだから、危なかったよ。
 俺がエアトラックを出すと、サリーは嬉しそうにはしゃいでいた。空中の通行を許可されているのは、トラックなんかの運送業と、観光バスくらいに限られてる。空を飛ぶ乗り物が珍しかったんだな。そういうところは、どう見ても子どもだった。
 サリーはやかましかったよ。運転が始まってからは、終ぞしゃべりづくだった。どんな事を話していたのかはほとんど覚えてないね。シンガーのアイスマンだかライスマンだかがどうとかーー。その時は状況が面倒でどうしようもなかったんだ、しかたないだろう? ただ終いまで、市街に行きたがる理由は口にしなかった。
 やがてフラップピークの街灯りが見えた頃に、サリーが俺に尋ねてきた。ああ、それまで小一時間ずっとしゃべりづくだったにもかかわらず、一度も俺に尋ねかけるなんてことをされなかったから、そこだけはよく覚えてるよ。
「ねえ、スタンリー。」
 しゃべり飽きたんだろうと思ったね。俺は声を出さずに、目配せして答えた。目端に見えたサリーは、少しおっかなびっくりしているようだった。
「あなた、どうして急に、私を乗せていってくれる気になったの?」
「別に」隠す理由もない。俺は正直なところを話すことにした。「大した理由なんてないさ。あんたがあそこで駄々をこね続けるよりも、大人しくフラップピークまで運んでやった方が、面倒じゃなくていいと思っただけだ。」
 もうこの仕事を辞めようと思っていたのもよかった。こんなことがバレたらすぐにクビだが、俺はむしろそれでもよかった。
「それとも、あのまま荷台から引きずり下ろされた方がよかったかい?」
「いいえ、とんでもない! 感謝しているわ、ありがとう、本当に。でも、その、私、何かお礼をしなくちゃ。」
 やめてくれ。そっちの方が面倒だ。
「いらないね。今日はたまたま、タクシー屋の真似事をしてもいい気分だったんだ。あんたは目的地についたら、さっさと車から降りてくれりゃいい。」
「わかったわ、ありがとう。あなた、見た目よりもずっと良い人なのね。」
「それはどうも。ほっといてくれ。」
 自分の見た目が普通の人のそれより、かなり厳めしいことに自覚はあった。サングラスもよくなかったな。ヒゲも剃るべきだったろう。これで恰幅がよけりゃあ、モーターサイクルギャングにでもなれたかもな。だけどあいにく、骨と皮だけでできたような男でね。
「ねえ、サングラス、外して見せてよ。」
「嫌だね。」
 この歳の女はすぐに人の顔を暴きたがって困る。さっきはおっかなびっくりしているように見えたが、そんな態度はもう微塵も感じなかった。
「あら、どうして? サングラスを取った方が、きっと素敵よ。ティアドロップなんて、ちょっと不良っぽいもの。」
「運転中でね。俺は目が悪いんだ。」
「そのサングラス、メガネにもなってるのね。でもサングラスを外した方がきっと素敵ね。眼鏡を掛けても素敵かも。嫌ならコンタクトレンズは?」
 分かったように言いやがる女に、俺は答えなかったし、顔を少しも見なかった。面倒だったんだな。
 すぐ目の前には、フラップピークの夜景が広がっていた。フラップピークはイルミネーションの街だから、夜景は特別にキレイだ。シケたカジノもボーリング場も、くたびれたアパートメントだって、この街ではキラキラとしている。
「光の街、フラップピークへようこそ。」なんて書かれた街の入り口の一際明るい看板を俺たちは通り過ぎた。こんな光景は、よほど観光客でもない限りは見たことがないだろう。サリーはやはり、嬉しそうにはしゃいでいた。
 俺は最終電車の過ぎた人気のない駅裏にトラックを降ろすことにした。
「駅の裏で降ろすぞ、いいな?」
「ええ、いいわ。ありがとう。」
 ライトを消して、俺はゆっくりと高度を下げる。エアトラックは静かだ。辞めてもいいなんて思っていても、気付けば人に見つからないように行動をしている。みっともないね。明日の生活の方が大切だったんだな、現実的には。
 駅の裏は明るい割に人通りも少なく、好都合だった。
「ありがとう、スタンリー。このお礼は……」
「5ドルだ。」
 俺は礼を言いながらクルマを出ようとするサリーを引き止めた。
「今日はタクシーなんでね。5ドル払いな。」
 タクシーの運賃にしちゃ安すぎるが、別に俺は金が欲しいわけじゃなかった。金を払わせることこそが重要だ。金を払って運んでもらったんなら、今の礼も後の礼もなくなる。俺は貸しも借りも作るつもりはなかった。
「オーケー、5ドルね。」
 最初はきょとんとしていたサリーだったが、しかし突然の請求にもイヤな顔一つせず、すくわに五枚の1ドル札を差し出してきた。
 俺はそれを乱暴に受け取って、イヤらしく枚数を数えてみる。イヤな奴に運んでもらって金を取られたんじゃ、もう恩返しなんて考えないと思ったんだ。
 しかしまあ、なんと言うかだな。この時に確信したが、あいつは俺と違って根っから純粋なやつなんだな。それとも本当に俺のことをタクシー遊びの名手だと勘違いしたのか。いずれにせよ純粋ではあるだろう。
「本当にありがとう、スタンリー。きちんとしたお礼は近いうちに必ず。」
 ちくしょうめ、サリーは恩を感じずにはいられなかったんだな。本当に困ったヤツだ。
 そう言ってサリーは車を降りた。俺は愛想なく手を振って、二度と再会しないように祈ってたよ。
 サリーがドアを閉めて数秒、俺はトラックのキーを回した。後はトラックを局へ置いて、家に帰るだけだった。ようやく長い一日終わったと思ったが、しかしそれも束の間だった。
 トラックをの高度を上げようとした瞬間、なぜか助手席側のドアがまた開いたんだ。
「スタンリー、ちょっとまって!」
 ドアを開けてきたのは、ああ、やはりサリーだった。二度と再会しないようにいのったってのにな、どうやらこの世に神様はいないらしい。
 俺は慌てて離陸を止め、トラックを再び地面に戻した。数十インチばかり持ち上がったトラックは、少し衝撃に揺れた。
「離陸中のトラックのドアを開けるなんて、死にたいのか!」
 俺はさすがに怒鳴ってやったが、しかしサリーは俺が怒鳴るのも意に介さなかった。
「あら、あなた大きい声も出せるのね。てっきりフクロウのモノマネが得意なのかと思ってたわ。」
 全く飄々としてやがる。最近のハイティーンってのはみんなこうなのかと思ったね。俺はそれ以上怒鳴るのを止めた。
「それで? 死にかけてまで俺のトラックを停めた理由は?」
「あなたに渡すものがあって。」
「金なら貰ったぜ。」
「違うの。」
 サリーは再び俺の隣に腰をかけて、今まで大事そうに持っていた白い布を広げ始めた。サリーを包み込めるくらに大きなその布は、どうやら袋のようだった。
「そんなでかい袋を持って、サンタクロースにでも弟子入りする気か?」
「まあね。」
 生返事をしながらサリーは袋の中をごそごそとやっている。さっきまで小さく折りたたまれた袋の中にから、一体何を探しているのか。ついに喋り過ぎて脳に酸素が回らなくなってしまったのかと思ったね。
 しかし俺は目の前で起こったことに、今度は自分の頭を疑うことになった。
「これ、あげるわ。」
 サリーは俺の目の前に、人の頭くらいはあるだろう四角い箱を差し出してきた。
 空っぽだったはずの袋の中から、その箱を差し出してきたのだ。
 緑色の包装紙はキラキラとしたラメ入りで、赤いナイロンのリボンで飾られている。いかにもプレゼントといった体裁だった。
「こんなもの、一体どこから……。」
 言いかけた俺の口にサリーの人差し指が当たる。更にサリーはもう片方の人差し指も自身の唇に当て、少しだけ微笑んだ。
「詳しい話しは、またの機会に。それじゃあ、また会いましょうスタンリー。」
 そして俺の返事も待たずに、サリーは再び俺のトラックの中から消えた。駅の裏、トラックの中は思った以上に静かだ。
 俺は深く考えるのをやめることにした。サリーは「また会いましょう」なんて言っていたが、そんなものはこちらから願い下げだ。次にあった時は知らないフリをしてやろうと決めた。
 俺と彼女との関係は、今日のついさっき、サリーが俺のトラックのドアを閉めて終わったのだ。
 再びエンジンをかけようと、俺はサリーが渡してきた箱を助手席に放ろうとしたが、やめた。あんな手品めいたことをされて、箱の中身が少しだけ気になったんだ。
 爆弾でも入ってやしないだろうか。
 俺は丁寧とはいかないまでも、ビリビリと散らかすことなくリボンと包装紙を剥がした。皮を剥くと、茶色い蓋つきの箱が一つ。俺は爆弾じゃないことを祈りながら蓋を開けた。
 もちろん、中身は爆弾なんかじゃなかった。
 でも俺はその箱の中身を、少しだけ恐ろしく思ったよ。
 なんせ、その箱に入っていたのは眼鏡だったんだから。それもきちんと俺の目に度の合う、真新しい眼鏡だったんだ。ご丁寧にケースも付いていた。
 俺はケースに入れたまま眼鏡をダッシュボードの中に放り込んで、プレゼントの包装紙は助手席の下に押し込んだ。
 俺は深く考えるのをやめていた。だからその日は何も考えずにそのまま大人しく局へ戻って、家に帰ったよ。
 長い夜だったね。帰り道にコンビニエンスストアに寄って、サリーから貰った5ドルでセブンスターを一箱買って帰った。

コメントをどうぞ